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■ オリジナル小説
   / 宝石を砕く魔王

 ・序  章 01
 ・第一節 01//02//03
 ・第二節 01//02//03
 ・第三節 01//02
 ・第四節 01

 

 




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第二節 三叉路の中心/少女 (2/3)


 彼らがリクセの住む町にたどり着いたのは、もうすっかり日が暮れてからだった。
  あまり大きな町ではないため、通りに人通りなどは殆ど無い。
  国境沿い―――つまり大峡谷の近くだ―――のこの町は、かつては交易で賑わっていたらしいが、国交の途絶えた今では見る影もない。寂れた、町だった。
「ちゃんと、コラトリオの人間として生活しているのか?」
  なんやかんやで付いてきてしまったルオコールの騎士―――シャスティが、声を潜めて聞いてくる。
「他にどうやって生活するっていうのさ。おおむね普通に生きてるよ。バレない様に」
「親は?」
「居ないよ。召喚騎士らしいし。宝石に入ってんじゃないの。大抵の騎士はそうなんだろ?」
「親が騎士ならば、支配も遺伝するはずだろ」
「知らないって。僕が聞きたいぐらいなんだから」
  返答に、シャスティは不満げに唸った。
  そうこう言っているうちに、リクセの家までたどり着く。町の外れに位置する、小さな一軒家。
「……物置小屋?」
  クッカが非常に失礼な感想を漏らした。
「家だよ……。れっきとした」
  叫びそうになるのをこらえ、扉を開く。
「あ、帰ってきた!」
  その彼を、とてもよく知った睨み顔が迎えてくれた。無言で、扉を閉める。
「……裏に回って」
「え、なんで?」
「いいから!」
「行きましょう、クッカ様」
  察したらしいシャスティが、クッカの手をとり強引に引っ張っていく。
「え? え?」
  二人の姿が家の裏手に消える直前、内側から再度扉が開かれた。
「何でいきなり閉めんのよ! せっかく夕飯持ってきてやったのに、いつまでたっても帰ってこないし!」
「うべっ」
  ついでに、クッカの呻き声も上がった。家の角を曲がる直前で、転んでいた。
―――嗚呼……。
  もはや諦めの境地で、夜空を見上げる。星がきれいだ。お月様もまん丸だ。そういえば小さいころ、月にはウサギが住んでいるのだと信じていた。そこの平衡感覚の狂ったウサギも、月に帰ってしまえばいいのに、と思った。
「……誰?」
  見知った、いわゆる幼馴染とか言う少女―――トリアの呟きは、月夜に吸い込まれるように静かに、それでいて重く響いた。

‡  ‡  ‡

 ピリピリとした空気が、狭い室内全体に満遍なくいきわたっていた。
  部屋の中に居るのは三人。クッカと、リクセと、そして目の前に座ってこちらを睨んでいる
見知らぬ少女。
  なんだか噛み付かれそうな少女だと、クッカは思った。
  元からつり上がり気味の目が、今はさらに細められて、攻撃的に尖っている。髪も、その印象を強めるとても直線的なショートカットで、クセッ毛気味の彼女にとっては少し羨ましかった。
「で。……あんた誰よ?」
  高い声を無理に低く響かせて、少女は口を開いた。
  理由は不明だが、物凄く敵意を向けられているらしい。
「クッカだけど……。あなたは?」
「トリアよ」
  それっきり、また沈黙が続く。何故だか、背中がむずむずした。
「あ〜……トリア? もう遅いし、そろそろ帰ったほうが……」
「黙りなさい」
「はい……」
  リクセの言い分は、首の裏を摘み上げられた猫のように、萎んで消えた。その様子は、クッカから見ていて少し面白いものがある。トリアの視線一つで脅えるリクセ。愉快だった。
「それで、クッカさん? 何しにここにきたわけ? それも夜遅くに」
  ただ、こちらにもその視線が向けられるのは遠慮したかったのだが、それは無理らしい。
  しかし、何をしにと聴かれると、少し戸惑った。ほかに行くところがなかったから付いてきただけなのだが。この家に来てする事と言えばなんだろうか。今は非常に疲れている。今日は色々とあったし。特にしたい事も―――ああ、眠い。
「……寝に?」
「寝る!?」
  横で、リクセが頭を抱えて蹲った。何か変なことを言っただろうか、とクッカは首を傾げた。
「あ、あんた、一体リクセとどういう関係よ!?」
「どういうって言われても……」
  会ったばかりなのだが。
  答えに迷いながら、今日の彼とのやり取りを思い出してみる。
  ハズレとか言われたり殴ったりお前とか言われたり命令されたり助けられたり押し倒されたり。ああそういえばと、クッカは思い至った。宝石のこと。
「彼が言うには、何か主従関係が成立してるみたいだけど」
「りくせぇぇぇええ!」
「うわ、ちょ、トリ―――ブエッ」
  いきなりリクセに組み付いたトリアは、その喉仏に手刀を突きいれ、怯んだ隙に豪快に背負い投げを決めた。
「アンッタなんつぅ事をぉぉぉぉお!」
  そのままマウントに組み敷き、怒涛のごとく拳を顔面に右、左、右、左! ときおり脇腹も攻めて上下に翻弄する見事なコンビネーションだ。
「待っ! トリア誤解! 誤解だからぁぁぁあ!」
「聞く耳持つもんですかぁぁぁぁぁあ!」
「ああああああぁぁぁぁぁぁぁ―――……あれ?」
  唐突にトリアの身体が力をなくした。クテン、とリクセの胸に倒れこみ、そのまま動かなくなる。
  そんな彼女の頭上を、体長三センチほどの羽虫が飛び回っていた。
「まったく……。何をやってんだ、さっきから」
  そこへ、ずっと外で待ちぼうけて居たのだろうシャスティが、扉を開けて入ってくる。
  その彼に向けて、リクセは怪訝な視線を向けた。
「トリアに何したんだよ?」
「眠らせただけだ。そういう虫だから、害はない」
  言いながら、宝石を取り出して羽虫を戻す。
「にしても、過激な痴話喧嘩だったな。尻に敷かれてるのか?」
「痴話って……別にそういう関係じゃないっ」
  それを聞いて、シャスティはさも意外そうな顔をする。
「そうなのか? 勿体無い」
「何がだよ……」
  うんざりした顔で、リクセは上にのったトリアごと身体を起こした。
  その顔に耳を近づけ、安堵の吐息を漏らす。
  本当にただ眠っているだけだと、確認できたからだろう。先ほどあれだけ殴られておきながら、こんな表情が出来るのは、余程の事だろう。
「家まで送っていかなくちゃな……」
  頭を掻きながらため息をつくリクセに、何故だろう、クッカはどこか羨ましいものを感じていた。

‡  ‡  ‡

 静かな夜の街を、トリアを背に歩く。
  背負った少女の身体は、意外なほどに軽かった。ついでに、背中に当たる感触も、意外なほどに豊満で柔らかかった。
  なんだかなぁ、とリクセは複雑に顔を歪める。
  変わるものだと、感慨を覚えた。彼自身小柄な体格をしているが、やはり女の子であるトリアよりは大きい。
  昔は、トリアのほうがずっと大きかった。力も向こうが上で、よく苛められていた記憶がある。殴られたり蹴られたり。まぁ、今も殴られるが。蹴られもするが。たまに頭突きや関節技を食らわされることもあったが。
「……昔と変わんないし」
  先ほどまでの考えを全否定した。
  まあいいや、と思考を切り上げる。
  変わったり、変わらなかったり、そんなもんだろう。その曖昧さは、多分心地よいものだ。単一の答えより、ずっと良い。
  よく知る看板を掲げた店が、目に入った。扉を押し開き、中に入る。店内に客の姿は、もうなかった。
  トリアの家は、小さな大衆食堂を経営していた。
  一応宿も貸してはいたが、それはあくまでついでに過ぎない。なぜなら、この町に旅行者など滅多に来ないからだ。
「おっちゃん、居る?」
  すぐに、厨房の奥から厳つい顔に無精髭を生やした壮年の男が出てくる。この店の店主にして、トリアの父親である、ロジードだ。
  ロジードは、リクセの姿を見るなり、破顔して口を開いた。
「おー。リクセか。ん、なんだうちの娘どうした?」
「寝てるだけだよ。帰るの遅くなっちゃって……待ってる間に寝ちゃったらしい」
  さらりと、嘘をつく。
「なんだ。獲物取れなかったのか?」
「ぜんっぜん。意地になって探してたら、こんな時間だよ」
  声を上げて、ロジードが笑う。
  リクセはよくこの店に、獲ってきた獲物を卸し、そしてよくこの店で食事もした。お互いがお互いの上客である。
「そういや、そいつシチュー持ってってたろ?」
「え? あ〜見てないや。残り物? 悪いね貰っちゃって」
「残り物ってわけじゃないんだが……。まぁいい。悪いけどそいつ部屋に寝かしといてくれや」
「あいよー」
  答え、二階へと上がっていく。
  トリアの部屋は、二階一番奥の突き当たりにあった。特に気兼ねもなく、部屋に入る。
  トリア以外の女性の部屋など入った事はなかったので、一概にどうとは言えなかったが、あまり女の子っぽい部屋ではない。リクセの部屋と、そう大差なかった。
  慎重に起こさないよう、ベッドに寝かせて布団をかける。
  改めて見るその寝顔は、嘘のように穏やかだった。いつもこうなら良いのに、と思いかけて、やめる。それはなんと言うか、正直気持ち悪い。
  トリアがしおらしくなったり、泣いたりしているのは、付き合いの長いリクセにも想像が付かなかった。いや、長いが故か。
「おやすみ」
  小さく呟いて、リクセは部屋を後にした。

 家に帰ると、二人はまるで我が家のようにくつろいで、勝手にシチューを食べていた。
「おかえり」
「なんだ、意外と早かったな」
「君ら、遠慮とかそういうのないの?」
  ヒクヒクと頬を引きつらせて、リクセは尋ねた。
「大雑把な味付けですけど、なかなかいけますね」
「うん。あんまり食べたことない、素朴な味」
  キッパリと無視された。
  というか、クッカの感想はつまり貧乏くさい味ということだろうか?
  もはや何も言う気になれず、リクセは台所へと足を向けた。暖められていたシチューを木の器に盛り、戻る。一杯分しか残っていなかった。
  椅子とテーブルは二人に占領されていたので、仕方なくベッドに腰掛けた。一掬いして口に含む。
  少し、首を傾げた。
  いつもと微妙に味が違っている。まぁ、別に食べれない訳ではなく、十分に美味しかったが。気にしても仕方ないかと、食事を進める。
「お姉ちゃんは、今もちゃんと生きているのよね?」
「ええ、ご健在ですよ。見ますか?」
  そんなリクセをよそに、クッカとシャスティは和気藹々と会話を続けていた。
「見るって……どうやって?」
「少々お待ちを。……スー、出てくれ」
  宝石を取り出し、解放する。光を纏って、先ほどの覗き人の妖精が現れた。
  シャスティは、その妖精の額に指を当て、
「……そう、この記憶を。クッカ様に、見せて差し上げてくれ」
  やがて妖精はコクコクと頷いて、クッカの目の前に舞い飛ぶ。
「えっと……なに?」
「目を閉じてください。そうした方が、違和感なく見れると思いますよ」
  戸惑った表情ながらも、クッカは目を閉じた。その額に、妖精の小さなオデコがちょこんとくっつく。
「うわ」
  気の抜けた驚きを、クッカが上げた。
「あ、……ホントにお姉ちゃんだ。なんか偉そう」
「いや、そりゃ女王ですから」
  記憶を見終わったのか、クッカが目を開いた。
「それなんだけど、何でお姉ちゃんが女王様なの? 確かに鞭は好きだったけど」
「ああ、それは宝石化した世界で残った二人のうちの一人がシヴィアス様だったんです。……え、ちょっと待ってください。鞭が、好き?」
「でも、普通に若かったけど?」
「なぜか知りませんが、歳をお取りにならないんですよ。それで、鞭が好きって言うのは……?」
「ふぅん……なんでだろ」
「あの、鞭って……」
「ルオコールの女王ってSだったの?」
「馬鹿な! シヴィアス様は、それはもう清楚で物静かで神々しいお方だぞ!?」
「そんな胸倉つかまれて力説されても……」
  シャスティの手を払って、クッカの方を見る。彼女は、その話を避けるかのようにそっぽを向いて、シチューを啜っていた。
  気にはなったものの、無理に聴く必要は無いかとリクセも食事に集中する。
  シャスティの方は、もう食事は終わっていたらしい。諦めたようにため息をつくと、食器を持って、意外にも律儀に片付けに行こうとする。
  その足が、崩れた。カランと食器が乾いた音を立て、床に落ちる。
「……何やってんの?」
  倒れたシャスティを見下ろして目をパチクリさせながら、リクセは問いかけた。
「クソ。支配で無理やり押さえ込んでいたが……さすがに限界か」
  倒れたまま、忌々しげに右足の裾をまくる。
  それを見て、息を呑む。右足の膝から下が、グロテスクな紫色に変色していた。
  同じく眺めていたクッカも、思いっきり表情をゆがませて、口に手を当てていた。確かに、食事中に見せられて、気持ちのいいものではない。
「どしたの、それ?」
「穂先蜂の毒だ。参ったな……。タオルかなんか、貸してくれるか?」
「え? あ〜……」
  少し迷う。ぶっちゃけ言えば、この男を亡き者にする絶好の機会なのだが。どうしたものか。
「この隙にやっちまおうとか考えてるんだろうが、そんな事したら宝石全部解放して暴れるからな。お前、ここに住めなくなるぞ」
「タオル、うん。すぐ持ってくるよ。任せて任せて」
  即答した。朗らかに笑いながら、落ちていた食器を片付け、タオルを取ってくる。シャスティは受け取ると、宝石の埋め込まれた銀細工を一つ取り出した。
「出来れば、やりたくねぇんだが……」
  解放すると、繊毛のような根が無数に張った、奇妙な形の球根が出てきた。
「げっ」
  その正体に思わず呻き、たじろぐ。
「き、寄生根じゃないか! 何でそんな……うわ、近づけるな!」
  ゲラゲラとどこかヤケクソ気味な笑い声を上げて、シャスティがそれを引っ込めった。
「何? その変なの」
「ああ、クッカ様。あまり見ないほうがいいですよ? 食欲無くなると思いますんで」
「もう食べ終わったわ」
「ああ、それなら大丈夫ですね」
「あ、いや、僕まだだから……」
  リクセの言葉には聞く耳持たず、シャスティがタオルを折りたたんで口に銜え、噛み締めた。
  やや震える手で、そっと寄生根を右足のふくらはぎに沿い当てた。
「ッ!!」
  シャスティが、悲鳴を無理やり噛み殺す。
  球根から生えた繊毛が、皮を突き破り、肉の下にまで潜り込んで、根を張っていた。足の表面には、網目のような筋が浮かび上がり、それが徐々に全体を覆っていく。
「うげ……」
  げんなりと青ざめて、持っていたスプーンを取り落とす。
  クッカは、いつの間にかベッドでシーツを頭にかぶって蹲っていた。気持ちは、分かる。
  シャスティは、ただひたすら悶え、耐えていた。
  顔には脂汗が溢れる様に沸き、身体は痙攣し、血走った目がどことも知れぬ虚空に泳ぐ。その激痛は、想像に難くなかった。
  やがて、数分もしただろうか。ようやくの事で、寄生根が侵食を止めた。網目の筋は、つま先から膝を超え、太ももの方にまで伸びていた。
「ぐ……はぁ!」
  シャスティがハンカチを吐き出し、喘ぐ。しばらくは、寝転んだまま動かなかった。
「……終わったの?」
  ベッドに潜り込んだまま、くぐもった声でクッカが聞いてくる。
「終わったみたいだけど……。足、凄いことになってるよ。見てみたら?」
「私、このまま寝る。絶対顔出さないわ」
「知ってる? そこ僕のベッドなんだけど」
「寝る」
  キッパリと言い切るクッカに、リクセはもはやと言うか、やはりと言うか、溜息ぐらいしか返せるものが無かった。
  クッカは本気で寝るつもりらしく、シーツの下でもそもそと動いて、完全に横になる。
  リクセは一人、わずかに残ったシチューを、どうしたものかと掻き混ぜていた。シャスティは、まだ起きなかった。
「……死んだ?」
  それならばすこぶる助かるのだが。
「生き……てる」
  残念ながら返事があった。ごろりと反転して仰向けになり、大きく息を吐く。
「死ぬかと、思ったが……これで、麻痺した足も動かせる……」
  なるほど、と納得した。
  本来ならば身体全体、それこそ脳に至るまで侵食する寄生根を、支配によって患部のみにとどめる。
  そして、寄生根に命令して、間接的に身体を動かすわけだ。それに、寄生魂には宿主が傷付いたいた場合に、修復しようとする習性もある。
  怪我をしたときなどには、確かに重宝しそうだった。自分で自分に使いたいとは、カケラも思わなかったが。
「けど、ちゃんと歩けんの?」
「負担がかかるから激しい動きは無理だけどな。それぐらいなら問題は無い……」
  身体を起こして、寄生させた足をゆっくりと動かす。感触を確かめていたのだろう、そこから恐る恐ると言った感じでシャスティは立ち上がった。
「慣れりゃ、軽く走るぐらいは平気か……?」
  緩やかに、踏みしめるように歩いて、シャスティは椅子に座った。グッタリと、テーブルの上に突っ伏す。
  しばらく、沈黙が続いた。クッカは早くも寝息を立て始め、シャスティはテーブルに突っ伏したまま。リクセもリクセで、いまだに踏ん切りがつかめずにシチューをゆっくりとかき混ぜていた。
  どうにか決心が付いて、シチューを口に含もうとした頃、シャスティが唐突に口を開いた。
「お前、これからどうするつもりだ?」
「……それは僕の方が聞きたいことなんだけど」
「俺は、クッカ様を連れ帰らなければならない。お前が邪魔だ」
「最後のその台詞も、僕が言いたいことなんだけどね……。そうだな、これ」
  呟きながら、ポケットに入れていた皮袋を取り出し、掲げた。
「この宝石を譲ってくれるなら、クッカを連れてってもいいよ。取引だ」
  コラトリオの騎士たちが、三人がかりで奪い取ろうとする宝石。一体何が入っているのかは知らないが、その価値はあるのだろう。
「それは無理だ。その宝石は、俺ではなく女王のものだ」
「んじゃあ、アンタが持ってるクッカの宝石も返せよ」
「それも無理だ。是が非でも、クッカ様は連れ帰らなければならない。それが命令だ」
「そうだろうね。おめでとう、平行線だ」
  特に落胆も無く、吐き捨てた。分かっていたことだ。個人的な取引など無意味。王の意向に逆らうことなど、絶対に出来ないのだから。当たり前だ。
「お前は何が目的なんだ? 何故宝石を集める」
「アンタに言う必要は無いだろ」
「いずれバレるぞ。宝石を集めていることも、貴様が王に支配されていない事も」
「……上手く、やるよ」
  出来ないことは、無いはずだ。今まで、やって来れたのだから。
「無理だ」
  しかし、シャスティはアッサリとそれを否定した。
「ルオコールに来い。俺から女王に進言しよう。シヴィアス様なら、お前の存在も認めてくださるはずだ」
「…………」
  リクセは答える気になれず、シチューの残りを口にかきこんだ。

 

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