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■ オリジナル小説
   / 宝石を砕く魔王

 ・序  章 01
 ・第一節 01//02//03
 ・第二節 01//02//03
 ・第三節 01//02
 ・第四節 01

 

 




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第一節 雷の空を超えて/新世界 (2/3)


羽音に反応し、伏せていた顔を上げる。
  カラスが一羽、木にもたれ座り込んでいた彼―――シャスティの元へと降りてきた。
軽く寝入っていたせいか、少し目線が定まっていなかった。その顔には、疲労が色濃く張り付いていることだろう。
「帰ってきたか……」
  言いながら、ポーチから文字の刻まれた鍵状の銀細工を取り出す。
  といっても、本当に必要なのはその銀細工に埋め込まれた宝石だ。鍵状の突起は、判別のための目印に過ぎない。
  この宝石を例にするなら、支援系。情報探査。ヒト形、小型クリーチャー。
  そして刻まれた文字は、名称。
「スー。出てくれ」
  応え、光が漏れる。
  現れたのは、体長二十センチほどの、翅の生えた小人。妖精族の少女だ。
  妖精のスーは、キラキラと輝く鱗粉を振り撒きながら飛び、彼の顔の前まで来ると、クンと小首をかしげた。
「そこの鳥の記憶、俺に移してくれるか?」
  小さく頷き、無駄にくるくる回りながらカラスの傍による。その額に手で触れたかと思うと、すぐまた引き返してきた。
  シャスティの額の前まで来ると、今度は手ではなく、自らの小さな額をコツンとくっつけてくる。
  いつもの癖として、彼は目を閉じた。
  閉じたはずの視界に写りこんでくる映像。風を切って空を飛んでいる自分。それは、先ほどカラスが見てきた光景だった。
  妖精族というのは、えてしてイタズラが大好きだ。
  それは人を転ばせるとか、小さな不幸を呼び込むなど様々だが、スーの種族の悪戯は、他人の記憶を盗み見ること。
  その能力を応用すれば、こういうことも出来る。妖精族の中でも覗き人と呼ばれ、重宝されるものだった。
  それを見ているうちに、新たなカラスが二羽、三羽と帰ってくる。
  それらの記憶も次々と見終え、彼は小さく安堵の吐息を漏らした。
「取りあえず追っ手は居ない、か」
  カラス達は偵察のために四方に放ったものだった。そして今のところ、敵らしき影は確認できていない。しかし、
「一羽、遅いな……」
  カラスは四方、つまり四羽放っていた。うち帰還したのは三匹。北に放ったはずの一羽がまだ帰ってきていなかった。
  飛んでいる上に見た目は普通のカラスなので、敵に気付かれ捕捉されたとは考えづらいが―――
  しかしその考えは、光となって宝石に帰還してきたカラスによって、見事に打ち砕かれた。
  警戒心が電撃のように体を走り、慌てて帰還してきたカラスを宝石から開放する。そのカラスの死骸を見て、シャスティはますます混乱した。
  カラスは矢に射抜かれて殺されていた。
  しかし、追っ手の中に矢を使うものは居なかったはずだし、しかもこの矢は見たところ狩猟用のものだ。 戦いで使うものではない。
「どういうこった。狩人に偶然やられたのか? ……ん?」
  持ち上げ詳しく確認しようとしたその嘴から、何かがポロリと落ちた。拾い上げる。
  大粒の、サファイアの宝石だ。
「ますますわからん……」
  呟いたその時、異変を示す笛のような鳴き声が響き渡った。

‡  ‡  ‡

 邪魔な枝を鉈で切り払いながら、追いかける。
  流れる光の帯は、いくらも行かぬうちに森の中へと降りていった。
  追いかけていたリクセは、付近まで来たところで走るのをやめ、足音を立てないように慎重に進んでいく。鉈は腰の後ろの鞘にしまった。
  程なくして、木々の隙間から人影が見えた。
  草葉に隠れるように身を伏せ、様子を伺う。
  人影はやや大柄な男だった。年は二十歳を少し過ぎたくらいか。褐色の肌で、不精気味に伸ばした黒髪を、布を巻いて邪魔にならないようにまとめている。身を包むのは灰色の野暮ったそうな旅装束。
  顔は―――遠くてよく確認できない。
  リクセは草を掻き分け、蜘蛛の巣を払い、這い進んでいく。
  顔が伺えた。その傍らには小さな妖精の姿。やはり召喚騎士だ。
(クッカの宝石も持ってる……。マズイな)
  どうするべきか。
  そもそも、あの男はどちら側の騎士なのだろうか。コラトリオかルオコールか。
  宝石の採取に来ているのだろうが、見れば負傷しているらしい。コラトリオの騎士ならば疲弊してなお、こんな所で屯しているとは考えづらかった。とはいえ、ルオコールの騎士がここまで来る理由というのもあまり想像できない。
  カリリ、と何かを引っかくような音がした。
  咄嗟に後ろを振り向く。
―――!?」
  血液が逆流する錯覚にとらわれた。
  悲鳴を堪えられたのは、僥倖としか言いようが無い。
  蜘蛛だ。二メートルに届こうかと言う禍々しい大蜘蛛が、宙に浮いてこちらを見下ろしていた。いや違う。蜘蛛の糸にぶら下がっているのだ。
(さっきの蜘蛛の巣!?)
  自らの失態に罵倒を浴びせるがもう遅い。
  大蜘蛛が笛のような奇声を上げた。
  もはや否応も無い。リクセはすぐさま立ち上がり、駆け出そうとした。
  行く手を遮るように、大蜘蛛が地に降り立つ。その大蜘蛛に弓を向け、
「そこまでだ!」
  矢を番えたまま、リクセは動きを止めた。
  ゆっくりと振り返り、声の主を確認する。当然ながら先ほどの男だ。
  その周りを囲うように飛んでいるのは穂先蜂だろう。男がその気になれば、自分はすぐにでも殺される。
  だがそんな事はこの際どうでもいい。次だ。男が次に言う言葉を絶対に聞き逃してはならない。男の表情を見逃してはならない。
  表情を、声音を、態度を、口調を、細部漏らさず観察して判断しなければならない。でなければ、自分は終わる。
「……お前、狩人か?」
  表情に揺らぎがある。声音が低い。警戒心が強い。口調は平坦。支配者のそれではない!
(ルオコールの人間だ!)
  ならば、やってやる!
「兜狼(コラン)、出ろ!」
  叫びとともに、左腕の袖の下―――木彫りの腕輪に埋め込まれた宝石から光が漏れる。
「ッ……六番!」
  男の声に、すぐさま横に飛ぶ。穂先蜂の針は間一髪、リクセの服を裂いて地面に突き刺さった。
  その頃には、光はすでに獣へと形を成している。
  三本の角を持つ、狼。
「蜘蛛をやれ!」
  右手に持っていた矢を捨て、鉈を抜く。
  命じられた狼はすぐさま大蜘蛛へと飛び掛った。蜘蛛は素早く、糸を巻き取るように木の上へと帰っていく。
  それを追うように、狼が手近な木を勢いよく垂直に駆け上った。
―――ザッザッ、ダン!
  半ばまで来たところで、そこからさらに跳ぶ。二体の獣の奇声が重なった。
  大蜘蛛と狼は空中でもつれ合って落ち、お互いがお互いを下に組み敷こうと、転げながら牙を向け合っていた。
  リクセもまた、男に向かっていった。
  鉈を抜くや否や男に斬りかかったが、距離をとられてアッサリとかわされる。
「ちぃっ、レニア―――
「させない!」
  男が右手で抜き出した銀細工を、今度は弓を振るって払い落とした。
  こんな使い方をしていては、弓が駄目になりそうだが、そんな事を言っていられる場面でもない。
  召喚騎士相手にクリーチャー戦では明らかに分が悪い。接近戦といっても、町で喧嘩ぐらいしかした事が無いので有利とはいえなかったが、怪我を負っている相手ならば何とかなる。後は覚悟だ。それならば、有る!
  砂を蹴り上げ、ひるんだ隙に相手に詰め寄る。
  振り下ろした鉈はしかし、手首を掴んで止められた。そのまま捻られ、関節が悲鳴を上げる。
「ぐっ……ちくしょう!」
  相手の鼻先に、今度は頭を叩き込んだ。
「があっ」
  男が仰け反る。そこへ足を引っ掛け、身体を押し付けるようにして倒す。
  そのまま馬乗りになり、今度は拳を振り下ろした。それはさすがに受け止められたが、構わない。狙いは別だ。
  男の腰に下げられた皮袋。それを会心の笑みを浮かべ、空いた手で無理やり剥ぎ取る。
  中にはジャラジャラと鳴るいくつもの小石の感触。やはり、未開放の宝石だ。
「き、キサマ!」
  男の目の色が変わった。その時だった。
―――ゴォオ!
  空を焦がすかと思うような炎が、遠くで上がった。
  緊迫した空気も忘れ、呆然とそれを見上げる。炎はすぐに消え去った。しかし、
(あっちは……クッカを置いてきた方向!?)
「どこを見ている」
  ハッとした時にはもう遅かった。髪を掴まれ、強引に引き倒される。今度はこちらが馬乗りにされる番だった。
「悪いが、もう余裕が無いんでな」
  いつの間にか取り落としていたのだろう。リクセの鉈を持ち、男が告げる。
「その宝石は我が女王に捧げるものだ。故にお前の命も、俺の命も代価に値しない!」
  それは死刑宣告だった。鉈の切っ先が、眉間へと、
(死ん―――
―――でたまるかぁ!」
  届く直前に無理やり首を捻り、砂を掴んで相手の顔にぶちまける。頬をわずかに裂き、鉈は地面に突き刺さった。
  跳ね上がる動悸をこらえ、相手の腹を蹴り上げる。
「コラァァン!」
  いったん距離を置き、にらみ合いを続けていた狼は、すぐさま呼びかけに答えた。
  駆け寄ってきた狼の角に掴まり、背中に跨る。
「クッカのところだ、走れ!」
  背後の怒声も無視して、獣を駆る。
  マズい。クッカに何かがあっては―――クッカが、王以外の誰かに解放された人間だと知られたら、非常にまずい! ましてそれが自分だと知れたら!
「ちくしょう……何なんだちくしょう! 本気で、容赦なしの、大ハズレじゃないか!」
  鞭のような木の枝に晒されながら、リクセは呪う様に叫んだ。

 

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