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■ オリジナル小説
   / 宝石を砕く魔王

 ・序  章 01
 ・第一節 01//02//03
 ・第二節 01//02//03
 ・第三節 01//02
 ・第四節 01

 

 




Text Page

Content List

◇続く神話/再生

その後、二人の男女はさまざまな宝石を見つけました。
動物の入った宝石、植物の入った宝石、人間の入った宝石。
そして、それらの宝石の中に入っていたモノ達は全て、宝石を解放した彼ら二人に、つき従ったのです。
世界は二人によって、徐々に元の形を取り戻していきました。


第二節 三叉路の中心/少女 (1/3)


 幼い、十二歳かそこらの少年に見えた。
  短く切った黒髪に、大きな黒い瞳。鼻先にちょこんと乗せた、小さな丸眼鏡。そして、そのあどけない外見に不釣合いな、大きく黒いマント。
「こんにちは、お二方。いや、もうそろそろ、こんばんはですか」
  律儀に言い直して、律儀なお辞儀を送ってくる。その所作には年に似合わない、妙に老成したものが伺えた。
  クッカを背後に、警戒から身構える。たとえ子供とはいえ、宝石を持っているならば関係ない。
  おそらく先ほどの二人組みの仲間。コラトリオの騎士だろう。
  どうやら自分たちは、ルオコールの人間だと思われているようだが、それはそれで好都合だった。
  問題は、どうやって逃げ出すか。
  他の二人を呼ばれると厄介だ。行動は早期に起こさねばならない。しかし、相手の手札がどんなものなのか、まったく読めなかった。
  この少年は一体、どうやって今この場に立った?
「さて、どうしましょうか。おとなしく降伏して宝石を渡してくれると、こちらとしても非常に助かるんですけど。無理ですよねぇ、やっぱり」
  困ったという風に、少年が頭をかく。
  宝石ならば、確かに男から奪ったものを持っているが。あの中に、それほど重要なものが入っていたのだろうか? ならば思わぬ拾い物だが。
「そもそも、あなたが宝石を持っているかどうかも、わかりませんしねぇ。あの騎士の人は、今どこに居るんでしょう?」
  こっちが聞きたいよ。と、胸中で毒づいた。
「だんまりですか? それじゃまぁ、仕方ないので―――
  ニッコリと微笑んで、少年が細工も何もされていない宝石を取り出した。
―――武力行使といきましょう」
  宣戦布告に、もはや迷っている時間はなかった。こちらも腕輪を掲げ、叫ぶ。
「コラン!」
  再び、兜狼を召喚する。命じるまでもなく、狼は少年へと飛び掛っていった。
―――ブワッ
  背後から、渦を巻くような風が吹いた。
  あまりの強風に目を覆う。その一瞬の後に―――少年の姿が消えていた。
「上!」
  クッカの叫びに、反射的に空を仰ぐ。
  そこには、風を受けたマントをはためかせて、少年が空に浮かんでいた。飛んでいた。
「なぁ!?」
  鳥のように羽ばたいているわけではない。
  それはまるで吹き散らされる枯葉だ。右へ左へ、振り回されるように風を受けながら、舞いながら、それでも確かに飛んでいる。
  おそらく、あの蝙蝠を連想させるマントも、宝石から解放したものなのだろう。でなければ、風を受けるだけでは飛べない。いや、そもそも風を操っている。どういう事だ、風の宝石を持っているのは、コラトリオの王だけの筈だ。
「落としますよー?」
  気の抜ける声とともに、少年の持つ宝石が輝いた。
「ちょ……」
  光は―――一抱えもある岩へと姿を変え、まっすぐにこちらへと落下してくる。
「嘘だろぉぉお!?」
  背後のクッカを抱きかかえ、あわてて横に飛ぶ。胸の下で小さな悲鳴が聞こえた。
  爆発したような音を響かせて、岩が地面に激突する。少し地面が揺れた気がした。
  気のせいなのか、本当に揺れたのかは判断が付かなかったが、取り敢えず当たったら死ぬ。それだけは痛いほどに実感できた。
「次ぎいきますねー」
  あわてて身体を起こし、振り仰ぐ。空からはまたも岩が、今度は二つ。
「クッカ、走れ!」
  少女の手を引いて無理やり走り出す。
  間一髪、背後で二つの爆音が重なった。無論、振り返るような暇もなく、森の中をひた走る。
「男の人に押し倒された……」
「そんなこと言ってる場合!?」
  確かにリクセも、女の子を押し倒したのは初めてだったが。女の子というのは、この状況でもそんな事を気にするものなのだろうか? むしろ現実逃避なのかもしれないが。というか、この思考も半分は現実逃避だった。
「まだまだいきますよー」
  その間にも、背後では次々と岩の落下音が響いている。少し、ほんの少しだけだが、泣きたくなった。
「コラァアン!」
  呼びかけに、狼が彼らと平行に走ってくる。
「ひとまずお前は戻れ!」
  受け、狼が宝石へと戻る。相手が空に居る以上、兜狼ではどうしようもなかった。とはいえ、他に有効な手札があるわけでもない。
  こんな事なら他の宝石も持ってくるのだったと、今朝の自分に毒づかずにはいられなかった。いや、せめて弓があれば。
「がんばりますねー。でも、まだいっぱい残っているので安心してください。何せ岩の宝石なんて、それこそ腐るほどありますからね。まぁ、重いものならタンスとかでも良いわけですけど、タンスには一応の使い道があるわけでして、やっぱり岩です。あ、でもタンスの下敷きになって死ぬなんて、人としての尊厳が踏みにじられそうで凄く嫌ですよね。岩よりも精神的ダメージ高そうです。今度試してみましょうか?」
「ちくしょう、あのガキ折り畳んでタンスに詰めてやりたい!」
「それ、私も手伝う!」
  相変わらず絶えない落下音に混じって、クッカの涙声が聞こえた。
「そうだよな、やっぱりそう思うよな! じゃあ二人で詰めよう! 逃げ延びて姿くらませて背後から忍び寄って縛って折ってタンスに詰めよう! そのためにも走って走って走って走―――
「うべっ」
―――らなきゃいけないのに、何でそこで転ぶんだよぉぉお!?」
  むちゃくちゃ泣きそうになりながら、断腸の思いでリクセは振り返った。
  駆け寄る。間に合うか? 間に合うわけがない。岩はもう、彼女のすぐ上に、
「突き、崩せ!」
  突如。地面から突き出した石の尖塔が、落下してきた岩を貫いていた。
  砕けた破片が、雨のように降り注ぐ。だがそんなことも意に介さず、リクセは一人の男の登場に、呆然としていた。
「アンタは……」
「……誰?」
  クッカが戸惑ったように呟く。
「あれ、意外ですね。派手にやってれば助けに来るかなと、ちょっとだけ期待してはいましたけど……。まさか、本当に来るとは思いませんでした」
  クッカを庇う様に佇んでいるのは、間違いなくあの褐色の男。ルオコールの騎士だった。
  だが、何故? 自分達はこの男の仲間ではない。
  助ける理由などないはずだ。彼から奪った宝石を持っているからだろうか? だとしても、助ける理由には弱い。
  男が二つ、銀細工を取り出す。
「一ツ尾、陰眼!」
  叫び、輝き、宝石から二体の怪鳥が飛び立つ。
  一羽は、蛇のように長い尾を持つ鳥。その先には、羽毛に隠れて二股の棘が付いていた。
  もう一羽は、首がそのまま伸びて窄まったような頭の鳥。瞳を持たず、口の裂け目が、首の付け根にまで延びている。口を開けば、犬ぐらいならば丸呑みできそうだと感じた。
  二羽は、左右から敵を挟みこむように飛び、少年に襲い掛かる。だが、
「無駄ですよ。翼竜だって、わたしを捕らえることは出来ません。知っているでしょう?」
  少年は二対の翼を、アッサリと回避した。
  無理だ。それを見ただけで理解する。
  二羽はまるで互いに軌跡を編み上げるように交差しながら、なおも突撃を繰り返すが、すべてがかわされる。掠りもしなかった。
  鳥は所詮、曲線でしか曲がれない。風をいなして、ゆったりと旋回するのだ。
  しかし枯葉は―――少年は直角に、あるいは鋭角に、気まぐれなまでに自由に飛ぶ。決してかなわない。
  男もそれが判っているのだろう、小さく舌打ちをもらした。
「おい、手を貸せ」
「貸せっていったって、僕には……」
  男が投げよこした弓に、言葉が詰まる。先ほどこの男と戦った際に捨て置いてきた、弓だった。
「お前のだ。使えるんだろう? まぁ、アレに当てられるかどうかは疑問だがな。無いよりマシだろ」
  その言葉には、カチンと来た。
  弓は、唯一彼が誇れるものだった。人生の大半をかけて研鑽してきた。たとえ相手が誰であろうと、胸を張って見せられるもの。それを、馬鹿にされた。
「なら、見てろよ。アンタはもう何もしなくていい」
  男を睨みつけながら、立つ。
  背中の矢ではなく、懐から一つの宝石を取り出した。命じ、解放する。
  出てきたのは、一本の変哲のない矢。だが、彼の支配に染まった矢。
  番える。限界まで弦を引き絞り、鏃を空へ。目を細め、視界に納めるのは、奔放に舞い飛ぶ枯葉のみ。
  意識せずに、矢を放つ。放つべきタイミングは初めから決まっているのだから、自身で思う必要はない。
  風を切る矢。それに気付き、少年が直角に舞う。
(今!)
  矢の飾り羽の一端が弾けた。見えたわけではない。それは感覚で伝わってきたものだ。
  空気抵抗に狂いの生じた矢は、まるで誘われるように弧を描き、
――――!?」
  少年のマントの端を貫いていた。
  それで十分だった。強風をマントに受けて舞う様は、一見ひどく大雑把なようだが、その実綱を渡る様なバランスで支えられているはずだ。それが突如として崩れた。
  結果、少年は本当に風に吹き散らされ、やはり枯葉のように遠く森の何処かへと落下して行った。
「なるほど。……やる」
「外したよ」
  若干の不満交じりに返す。一応は、身体を射貫く気で撃った。本気だったかどうかは、自分でもわからなかったが。
  男が、二羽の怪鳥を宝石に戻す。
  リクセはその間に、未だ地面に座り込んだままだったクッカに手を貸し、立ち上がらせた。
「さて」
  改めて、男がこちらへと向き直った。
  緩んでいた身体に、再び緊張が走る。この男が宝石を取り返しに来たのだとしたら、また戦闘になる。
  だが予想に反して、男はリクセの横を通り過ぎ、あろう事かクッカの前に跪いた。
「クッカ・ルオコール様ですね?」
  男の様子に、クッカは戸惑ったように眉をひそめる。
「そうだけど……あなたは? なんで、私の名前を?」
「私はシャスティ・ラッドと申します。名前は覗き人から、貴方様の記憶を拝見いたしました。知らなかったとはいえ、その事には申し訳なく思います」
  男の言葉に、クッカはしきりに首を傾げるばかりだった。それは、リクセも同じ。
(いや……ルオコールだって?)
「私は……いえ、我々騎士たちは、女王の命によりずっと、貴方の宝石を捜しておりました」
  まさか、と思った。そんな偶然があるものだろうか。しかし、
「我が王の名は、シヴィアス・ルオコール。貴方様の姉君でございます」
「お姉ちゃんが……女王様?」
  嘘としか思えない事実を、男は述べた。
「クッカ!」
  反射的に、彼は叫んでいた。
「その男から離れろ。こっちに来い!」
  言葉に、戸惑いながらもクッカは従った。支配しているのだから、当たり前だが。
  自分が何故、そんな事を命じたのか一瞬わからなかった。だが、すぐに思考が追いつく。
  今の話が本当なら、クッカはこの上ない切り札となるから。
  人質として。そんな濁りきった理由で、彼女を呼んだ。自分の、目的のために。
「貴様は……やはりそうなのか」
  予想していた何かを、確信した表情で、男が呟いた。懐から大粒のサファイアを取り出し、こちらを睨むように見つめてくる。
「この宝石から、お前がクッカ様を解放した。そうだな?」
  リクセは答えなかった。
「コラトリオの騎士に反逆し、かといって俺はお前のようなルオコールの騎士は知らない。お前の王は誰だ!?」
「僕に王は居ない」
  覚悟を決める。もはや、隠し通すことなど出来ない。誰も知らない、言う事の出来なかった、自分の真実。
「僕は、自分の意志だけで生きている。僕は、誰にも、支配されていない」
  殺気すら滲ませる男の視線を真正面から受け止めて、リクセは告げた。

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