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■二次創作小説
 /魔法少女リリカルなのは
  / 海鳴市での
      奇抜な休日シリーズ

  ・Sun light heart all ready!!
     01//02//03

 

 




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 Sun light heart all ready!!(3/3)
   [エキサイト翻訳:太陽はすべて準備ができていた状態で心臓を点灯します]

 鋭く。風を切って雄大に空を飛ぶ。
  遙か高見から見下ろせば、人が築きあげた街も積み木のおもちゃ同然だ。芸術的建築物も、瓦礫の塔も、そこに至れば皆いっしょくたになってひしめきあうだけ。人は点描、街並みはモザイク。ここから絵の具を垂らせば、きっと自分の好きな用に染められる気がする。まぁ、錯覚だろうが。
  なるほど、と納得する。これが高揚感というものだろうか。人をゴミに例えたくもなるというものだ。気分はそう悪くはない。しかしまぁ一つ問題があるとすれば、彼女は自分で好きこのんで、こんなバカみたいに飛び上がっているわけではないと言うことだろうか。
『さて、どうしましょうか……』
  無駄に空高ーく舞い上がったカラスに銜えられながらも、割かし冷静な声音でレイジングハートは呟いた。
  まったく持って迂闊であった。いくら休暇と言うことで気が緩んでいたとはいえ、接近にまったく気付けなかった。普段であるならば、不意に放たれた高速直射弾にすら対応できるというのに。
  いやしかし、彼女の油断ばかりではないだろう。偶然かどうかは分からないが、このカラスは、まるでセンサーの隙間を縫うように接近してきたのである。
『野生の力も侮れませんね』
  まぁ、感心していても仕方がない。どうにかしてこの状況から抜け出さなければならない。
  とはいえ、そんな方法など一つしかないが。
『仕方がありませんね。まぁ、このカラスには運がなかったと思って諦めて貰いましょう』
  そう言って、彼女は魔法を行使すべく、プログラムを起動させた。まぁ、非殺傷設定で、気絶しない程度に威力を弱めれば大丈夫だろう。
  赤い宝玉の内側に文字が走り、構築が完了する。
『Divine Shooter』
  キュン、と前方に桜色の魔力が収束し、
―――パシュッ。ぷしゅるるるぅぅ……
  非常に気の抜ける音を立てて、魔力弾は放たれることなく散っていった。
『おや?』
  もう一度魔法を起動させる。しかしやはり、魔力弾は空気の抜けるような音を立てて消えた。
  そこではたと気付く。デバイスに貯蓄されていた予備魔力が、殆ど底を突いていた。
『そんな筈は……。昨日の時点で、まだ貯蓄石には残されていたはずで……』
  昨日からの自分の行動を思い出してみる。フライヤーフィンで飛び回り、レンタルビデオショップではクロノにリングバインドを使い、魔力触手であれやこれや好き勝手いじり、ディバインシューターでハエを撃墜し……
『…………無駄遣いしすぎました』
  その呟きは冷たく、風に浚われて消えた。

(『クロノ執務官。聞こえますか、クロノ執務官』)
「ん?」
  その念話は、相変わらず臨海公園でノンビリしていたときに届いた。
(「レイジングハート? どうかしたのか」)
(『申し訳ありませんが、救助を要請します』)
「は?」
  念話で会話している相手に届くわけでもないのに、クロノは思わず素っ頓狂な声を上げた。
(「な、なんでまた……?」)
(『外を飛んでいたらカラスに浚われました。速やかに救助を』)
(「……バカだろう君は」)
  心の底からの本音を、いっぺんの曇り無く気持ちいいほどハッキリと言い放つ。流石の彼女も反論のしようがないのか、しばし押し黙っていた。
(『…………とにかく、救助を。魔力が底を突きかけているので念話もいつまで続けられるか分かりません』)
(「ち、ちょっと待ってろ。ええっと……今居る大まかな位置は分かるか?」)
(『そうですね……。八束神社がちょうど真下に見えます。今は、そこから北西の方角に真っ直ぐ飛んでいますね』)
(「分かった。すぐに行く」)
  念話を打ち切ると、辺りに人は居ないかを確認し、すぐさま魔法で飛び立とうとしたところで―――思い出したように振り返り、側に止めてあった自転車に走り寄った。
  近くの外灯にしっかりとチェーンを巻き付け、鍵を掛けたのち、改めて飛び立つ。
  何があろうとも、この愛車だけは絶対に譲れないクロノであった。


 飛行魔法を使い高速で移動しながら、レイジングハートのかすかな魔力を頼りに探査魔法を起動する。
  大まかな位置は聞いていたため、探査範囲をずらしながら何度か繰り返すうちに、そう掛からずに位置が特定できた。
―――見つけたッ」
  薄雲を抜けたその先に青空に穿たれた黒点を発見し、さらに飛行速度を上げる。
  こちらの接近に気付いたのか、唐突にカラスが翼を傾けて急降下した。クロノもそれを追う。風に音が浚われ、胃が浮き上がるような違和感。
  交差する刹那、カラスを捕らえるべく手を伸ばす。しかし標的は大きく翼を広げて風を受け、上方へと逃れた。
「くっ……!」
  すぐさまターンして、再度接近を試みる。
  それに抗するべく、カラスは右へ、左へ。上へ、下へ。細かな機動で旋回を繰り返し、巧みにクロノの腕をかいくぐる。さらには丁度クロノが真後ろへ来た時を見計らって爆撃―――用は糞だ―――までしてきた。
「どぉあ!!」
  顔を引きつらせ、咄嗟に避ける。冷たい汗が、頬を伝った。
「なんつー恐ろしいことを……。やはり、魔法を使わずには無理か」
  気の毒だが、このままレイジングハートを連れ去られるわけにも行かない。ただでさえ、今なのはには嘘をついている状態なのだ。それがばれた上にレイジングハートが居なくなりました、なんて伝えた日には……
「間違いなくSLBをぶちかまされるな……」
  その恐ろしい想像に、思わず身震いする。
  まぁそれを抜きにしても、彼女は友人だ。少々特殊な関係ではあるが、そう呼んで差し支えないだろう。
「なら、助けないわけにはいかないさ」
  呟き、S2Uを構える。
『Stinger Ray』
  S2Uの電子音声と共に、三条の光弾が高速で放たれる。大きく旋回して交わそうとするカラスの翼を僅かにかすめ、数本の羽根を散らした。
「擦っただけか……。ならッ」
  かわすことの出来ない魔法を撃つまで。
  集中と共に魔力が杖を伝い、先端に小さく収束される。
『Stinger Snipe』
  ギュンッ、と鋭い回転を伴って、軌跡を残しながら光弾が奔る。光弾は弧を描き、旋回を続けるカラスを正確に追尾し―――
―――パァンッ!
  命中するかと思われた瞬間、突如展開された魔法障壁に弾かれた。
「な!?」
  予想だにしなかった事態に、あっけにとられるクロノ。辺りを探ってみても、魔導師の反応などはない筈だが、まさか。
  その隙をつき、カラスが近くの雑木林へと逃げていく。
「く……逃がすか!」
  あの魔法障壁が何なのかは分からないが、とにかく見失うわけにはいかない。雑木林ならば人も居ないだろう。
  雑木林に飛び込むと、何を考えてかカラスは逃げもせず、枝に止まり黒真珠のような瞳をこちらに向けていた。
―――クワァア
  と、レイジングハートを咥えたままの口から、くぐもった鳴き声が聞こえた。その鳴き声の意味が理解できたわけではない。しかしその声音に、何か只ならぬものを感じてクロノは立ち止まった。
「なんだ……?」
  カラスはそれを確認してから、クチバシをちょいちょいと下に向ける。その先に―――
―――NooooooooooOOOOO!!!』
  太く、堅く。出来たてホヤホヤの湯気を立てる巨大な犬の糞が、とぐろを巻いて王者のごとく鎮座していた。
『Please help me!! Please help me!!![訳:助けてください!! 助けてください!!!]』
  ここが世界の中心だと言わんばかりに、レイジングハートが泣き叫ぶ。
  カラスの瞳に灯った輝きが「坊主、それ以上近づけばこいつの命(?)は無いぜ……」と渋く語っていた。
「な、なんて卑劣な!!」
  人の尊厳を踏みにじるかのような悪辣な脅しに、クロノが身を震わせて呻く。
  そんな事になれば、もはや取り返しが付かない。たとえ汚れを洗い落とそうとも、彼女の心の傷までは消せないのだ。そしてさらに、なのははそんなことなど露知らず、かつて犬の糞の付いた宝石を後生大事に持ち歩き、犬の糞の付いた宝石を「セーット、アーップ!」とか可愛く言いながら放り上げて変身し、犬の糞の付いた宝石が変形した杖を相手に向けて「絶対にお話、聞かせてもらうんだから!!」とか凛々しく語っちゃったりするのだ。もはや全ては終わりである。
  そんな自体だけは、絶対に避けなければならない!
「クソ! 一体どうすれば……!!」
  打開策の見つけられぬまま、しかし退く事も出来ず、クロノは奥歯をかみ締めていた。

 さて、そんな緊迫の場面とはうって変わって、所は雑木林の隣に位置する公園へと移る。
  そこでは近所の子供たちによる、草野球の試合が行われていた
  9回裏二死満塁。点差は1対3。一発出れば逆転のチャンス。しかし最後の運命を託されたバッターは、2ストライク1ボールと追い込まれていた。
「へいへい! バッタービビってる!!」
「あっと一球! あっと一球!!」
  舞飛ぶ敵内野手からのヤジ。対する味方ベンチに座る仲間達は、静かなものだ。しかし、決して見限られているわけではない。ただ彼の集中を乱さぬよう、静かに祈っているのだ。
  バッターボックスに経つ少年には、ちょっとした過去があった。丁度一年前の話だ。当時リトルリーグに所属していた彼は、5年生ながらその抜群の打撃センス買われ、四番打者としてチームを引っ張っていた。しかしそんな彼に悲劇が―――頭部へのデッドボールが襲った。
  左目の下に直撃した硬球は彼の頬骨を砕き、下手をすれば失明の危険もあると医師は語った。幸い手術により大事には至らなかったものの、その時の恐怖は彼の心に深い傷を残すこととなる。バッターボックスに立てばその時の記憶がよみがえり、震えてバットも握れなくなった。もう野球は続けられないのか……。絶望にうちひしがれ、河原に一人座り込み、悔し涙を流していた。そんな彼に声を掛けたのが、今の草野球チームの仲間達だった。なぁ、ちょっと試合に入ってくんね? 人数が足りなくてさー! い、いや、俺は……。大丈夫大丈夫、取りあえず立ってるだけで良いからさ! 
  そう言って強引に、彼を引っ張っていった。彼らの実力は……正直酷いものだった。ろくに捕球もままならず、バットの構えもデタラメ。ピッチャーの球はそもそもストライクに入ることが希で、立ってるだけでも大抵フォアボールで塁に出れる。まぁ、彼らはフォアボールなんぞゴメンだとばかりに、ボール球でも構わず振り回していたが。それでも、彼らは心から野球を楽しんでいた。
  それからも度々、彼は少年達に野球に誘われるようになった。彼がリトルリーグに居たと知ると、コーチしてくれとせがまれた。そうして少しづつ、少しづつ、彼は恐怖を克服していき。草野球チームも少しづつ、少しづつ、実力を付けていった。
  そして今日。彼は初めて、自分に四番を打たせてくれと志願した。相手は宿敵、隣町の草野球チーム。今までの戦績は全戦全敗。しかし実力を付けてきた今回こそはと、皆意気込んでいた。そんな大事な試合であるのに、彼らは快く、少年に四番の座を与えてくれた。任せたぜ、と拳を握って。
  これまでの打席は、相手の執拗な内角攻めに苦しんで、三振2、内野ゴロ1。ある程度の恐怖は克服できたのだが、それでも内角にボールがくるとどうしても体が仰け反ってしまう。恐怖が蘇る。しかし、仲間達は彼を代えようとはしなかった。ただ信じて、この最後の打席もバッターボックスに送ってくれた。
  畜生ビビるな! 己の腕に渇を入れ、ピッチャーを睨む。スポットライトが当たってる。みんなが俺を見てる。負け犬を嘲る目で? 違う、ヒーローを信じる目でだ!! なら、打たなきゃ嘘だろう!!
  相手ピッチャーが大きく振りかぶる。セットアップではなく。ランナーなど関係ないこの打者を仕留めれば終わりだと、鋭い瞳が語っていた。運命の一球が放たれる。速球、コースは内角高め!!
  ボールか? いや入ってる! 逃げようとする体を、歯がみして必至に押しとどめる。ボールを見ろ、バットを握れ、体に当たるような球じゃない、畜生、振り抜け、ここで見逃しやがったらお前の価値なんざ何もねぇ!!
―――打て!!
  仲間の声が聞こえた。弾けるように、この一年の記憶が蘇り、デッドボールの記憶を塗りつぶした。震えが消える。ボールの縫い目まで、ハッキリとその目に捕らえることが出来た。
  バットを振り抜く。突き抜けるような、金属音。
  ボールは高く、高く。翼でも生えたかのように、遠く青い空に吸い込まれていった……。

―――ぶげろごあ!
  どこからともなく飛んできた白球に直撃され、カラスがなんか全てを台無しにするかのような悲鳴を上げた。 
  クチバシからこぼれ落ちるレイジングハート。すぐさま飛び寄るクロノ。
  全てがスローモーションに流れる世界の中で、レイジングハートがフライヤーフィンを展開しようとする。しかし魔力のない身でそんな事が叶うはずもなく、無意味に僅かな桜色の魔力を散らすだけに終わった。クロノも必至に手を伸ばすが、間に合わない。下には彼女を飲み込まんと待ち受ける、大蛇のごとき犬の糞。
  このままでは終わる。この世界が―――“リリカルなのは”が終わってしまう!
  咄嗟に、クロノはバリアジャケットの内側に手を突っ込んだ。目的のものを握りしめ、取り出して振りかぶる。
  それは、レイジングハートのカートリッジマガジン。敗北した彼女が、再び立ち上がるために得た力。誇りの証。
「彼女の誇りが生み出したものなら、彼女を救って見せろぉぉぉおお!!」
  叫び、クロノは投げ放つ。マガジンは回転しながら、一直線にレイジングハートの元へ飛んでいき―――腐臭の玉座に彼女が降り立つ寸前に接触した。
  瞬間。辺りは太陽のごとき光に包まれた。
「な、なんだ!?」
  あまりの光量に、腕で顔を覆いながらクロノが後退る。そんな彼の耳に、どこからともなく非常にアップテンポな音楽が聞こえてきた。

 ジャンジャンジャガジャジャンガジャンジャージャン! ジャンジャンジャガジャジャンガジャンジャージャー!!

 なんだ、一体どこから聞こえてくるんだ? 視界の効かない世界で、それでも辺りを探るクロノ。割と近くから聞こえてくるのだが―――
―――って、S2Uからか!?」
  音を奏でているのは、彼が手に握りしめていたストレージデバイスからだった。どういう事だ、確かにS2Uには音楽を録音再生する機能はついているが、こんな曲は登録した覚えがない。
『I will explain it!![訳:説明しよう!!]』
「デュ、デュランダルも!?」
  今度は、内ポケットに待機状態のまま入れてあったデュランダルから叫びが聞こえた。クロノの頭が、混乱の極致に達する。
『When her fear and anger reached a top, I receive solar gedlto power, and a hidden Ano function starts!! [訳:彼女の恐怖と怒りが頂点に達したとき、太陽からのゲドルトパワーを受け、隠されたあのシステムが起動するのだ!!]』
「あのシステムってなんだー!!」
  たまらず、叫び声を上げる。しかしそんな問いに答えてくれる人間が居るはずもなく、S2Uの奏でる音楽がイントロを終えて歌詞に突入した。

太陽が、熱く燃えたぎる!! プロミス!!
銀月を、熱で染め上げる!! フレアー!!
凍えたー、冬をー、塗り替えるー!! ボルケノーー!!!

『She who started a system takes over control of a device in neighborhood and can spread own theme song!!  As for the commentator more!![システムを起動させた彼女は近くにあるデバイスの制御を乗っ取り、自らの主題歌を流すことが出来るのだ!! あと解説者も!!]』
「いらねー!! ていうかハッキング!? S2Uはともかくデュランダルは現時点で最高の性能を有したデバイスだぞ!?」

凍てついた、人の心をー! 融かしー! 湯がきー! 蒸発さ・せ・ろー!!
そーのー身のー血潮を、マグマにー変ーえてー!!
降り注げー! 憎しみのー! 火・山・灰ー!!

『Furthermore, as a function of discount, transaction speed rises to 1.3 times, too, but will do not matter because it is a trifle!![さらにおまけの機能として、処理速度も1.3倍ほど上昇するが、まぁそれは些細なことなのでどうでも良いだろう!!]』
「むしろそっちをメインに持ってこい!!」

嗚ー呼ー! 暗天のー! 世界ーにー降り立ちー!!
夜明けーをー導けー!! サーンラーイトハート!
オォォォオル、レディィィィィィイイイイイイ!!!!!

「レイジングハート……君は一体……どんな、オタク趣味の技術者に作られたんだ……?」

―――ジャガジャジャンン!!

 歌が終わりを告げると共に光が薄れ、ゆっくりとデバイスモードへと変じたレイジングハートが姿を見せる。心なしか、その身がフルフルと細かく震えているように見えた。
  生きていたのか、例のカラスが割と平気な様子で、警戒するように彼女の周りを飛び回る。
『The thing of now was scary……[訳:今のは恐かった……]』
  ボソリと。底冷えのするような声で、レイジングハートが呟いた。ガシャコン、と一度だけカートリッジをロードする。
『I was fierce―――!![訳:恐かったぞーー!! 注:口調が違いますが、あくまでこの翻訳はイメージです]』 
  バサリと大きく桜色の翼を広げ、レイジングハートが飛び立った。マスターも居ないというのに恐るべき速度で魔法を起動させ、砲撃を撃ち放つ。しかし、またもその砲撃は展開された魔法障壁に阻まれた。
「!? やはりあのカラスが魔法を使っているのか!」
  普通リンカーコアを持たない自然界の生物が、突然変異により強い魔力を持ち、自らの本能により魔法を行使するものが居ることは、管理局でもいくつか確認されている。要するに、カラス版高町なのはだ。しかし、それは本当に天文学的確率の事であり、実際にこの目で見ることになるとは思いもしなかった。
  ひょっとすれば、レイジングハートを狙ったのも、光り物だからというよりは彼女の持つ僅かな魔力に惹かれての事なのかもしれない。
『おのれ、ろくに知能も持たない野生動物がこざかしい!!』
  まるっきり悪役みたいなセリフを吐きながら、レイジングハートがカラスを追撃する。
―――クワァ! クワワァァァア!!
  それに相対するようにカラスも叫んだ。
『黙りなさい! その人のゴミを漁って生きている生物が何を言うのです!!』
「……ひょっとして、会話が成立してるのか?」
『地球を汚すことしかできない人間の隷属が我を侮辱するか! と言っているようです』
「なんでお前まで分かるんだ!?」
  未だ律儀に解説を続けるデュランダルに、そろそろ叫びすぎて掠れてきた声でクロノが突っ込む。
  その間も、レイジングハートとカラスの戦いは熾烈を極めていた。カラスが魔力により強化、加速された羽根を撃ち出せば、それをかいくぐってレイジングハートも砲撃を続ける。しかしお互いに決定打を決められず、戦いは消耗戦の様相を呈してきた。そうなれば、自分で大気中の魔力を取り込んでの回復が出来ないレイジングハートの方が不利である。
『クッ……ならば!!』
  それを理解しているのだろう。レイジングハートは覚悟を決めたように叫び、残っていたカートリッジの全てをロードした。
  グルリと大きく旋回しながら変形プロセスを起動。ガシャンガシャンと駆動音を響かせ、一瞬にしてエクセリオンモードへチェンジする。
『先端に全ての魔力を集めます!!』
  宣言通り、残る全ての魔力を注いだストライクフレームを先端に形成し、神風特攻のごとくレイジングハートは突撃した。
―――クワァァァアア!!
  カラスもまた、全身を発光させ、自身の最大出力ギリギリまで絞り出したシールドを展開する。
  何モノをも貫く決意を込めた矛と。全てを退ける意志を込めた盾がぶつかり合う。瞬く閃光。吹き荒れる魔力の余波。もうどうにでもなれと諦めを含んだ瞳で、クロノはゲンナリとその勝負の結末を見届けていた。
  ピシリと。盾と矛に、同時にヒビが走る。相打ちか? その予想を打ち砕くように、レイジングハートがさらに出力をあげた。
―――クワ!?
  槍の先端がシールドにめり込む。
『ここから居なくなりなさい!!』
  パリィィンン! 限界を超えた出力に耐えかね、レイジングハートの宝玉に亀裂が入り欠片が宙を舞う。しかしそれでも怯むことなくただ彼女は直進した。
  ついに、シールドが弾け―――
―――クワァァァァアアアアアア!!!
  悲鳴と爆音が、辺りに響き渡った。


 戦闘が終わって。
  もはや全ての力を使い切ったのだろう。レイジングハートは弱々しく光を放つと、元の小さな宝石へと姿を変え、ひょろひょろと落下してきた。
  それを手で受け止め、クロノは小さくため息をつく。
「お疲れだったな。レイジングハート」
『ええ……。本当に、疲れました……』
「あのカラスは、仕留めたのか?」
『いえ……最後の最後で、逃げられました。しかしまぁ……今日はよしとしましょう』
「そうか。そうだな。まぁ、ゆっくり休むと良い」
『そうですね……。早く家に帰って、DVDの続きでもみなが……』
「整備部でな」
『は?』
  訳が分からないというように、レイジングハートが声を上げた。
「コアを損傷してるんだ。当然だろう」
『ま、待ってください。この程度の破損ならば、自己修復機能で十分対処できますッ』
「いやいや。それだけではやはり不安だろう。整備部で見て貰った方が良い。ああ、あとついでに君に組み込まれているプログラムも、マリーに徹底的に解析して貰おう。隅から隅まで。うん、是非そうするべきだ。かなりの手間が掛かるだろうが、なに時間は十分にある」
『そんなっ。ではドラマの続きはどうなるのです! 私の休暇は!?』
「また今度な」
  悲痛な叫び声を上げるレイジングハートをぎゅっと握りこんで黙らせ、クロノは雑木林を抜けた。
  ふと横を見ると、公園で野球でもしていたのか、バットやグローブを携えた少年達が寄り集まり、一人の少年を囲んで盛大に歓声を上げていた。
  そう言えば、とあのとき飛んできた白球を思い出す。アレが決勝打だとすれば、あの囲まれている少年が打ったものなのだろうか。だとすれば彼は間違いなく、あの絶望的状況を打開しこの世界を救ったヒーローである。
―――協力を感謝するよ。
  心の中で、クロノは名も知らぬ少年に敬礼を捧げ、静かにその場を立ち去った。

                                      ―――FIN

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