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Sun light heart all ready!!(1/3)
[エキサイト翻訳:太陽はすべて準備ができていた状態で心臓を点灯します]
コッコッ、と。妙に小さく、それでいて堅いノックの音が執務室に響いた。
「開いているよ」
振り向きもせず、報告書を読みながらクロノが答える。しかし扉は開かれることなく、また小さなノックが繰り返された。
「だから、開いている」
先ほどよりも若干大きな声で伝える。答えは、三度目のノックだった。
一体誰だ? 少々不機嫌な顔で眉根を寄せ、クロノは振り返った。こっちは仕事中だというのに、イタズラか何かだろうか―――と思いかけて、ふと心当たりを思いつく。
サッと立ち上がって扉に向かい、クロノはセンサーに触れた。ドアがスライドされ、ノックの主が姿を見せる。
「……やはり君か」
『この扉、人間以外にも反応するようには出来ないのですか? そのうち私の表面に傷が付きそうです』
「考えておくよ」
苦笑しつつ、小さなフライアーフィンをパタパタと羽ばたかせ入ってきた彼女―――レイジングハートにそう返す。
彼はポケットからハンカチを取り出し、いつものように折りたたんでデスクの上に置いた。その上に、ポスンとレイジングハートが着地する。赤い宝石の体が、やれやれとくつろぐように、チカチカ瞬いた。
「なのははどうしたんだ?」
訪ねながら、クロノは備え付けのインスタントコーヒーを取り出し、カップに注いだ。まぁ、休憩にはちょうどいいだろう。あまり根を詰めすぎても、作業効率が落ちてしまう。
『レストルームでフェイト達と話を。珍しくヴォルケンリッターの面々も一緒でしたから。話が弾んでいました』
「なるほど」
確かに、このところシグナム達は任務に出ずっぱりだった。対するなのは達は特に任務もなく、学校中心の生活が続いていたため、あまり会う機会もなかったのだろう。
「と言うことは……また訓練室で暴れられるな……」
思わず苦み走ってしまった表情を誤魔化すように、クロノはコーヒーを口に含んだ。
『私がここにいますから、マスターは模擬戦に参加できません。そう大がかりなものにはならないでしょう』
「だといいんだがな……」
取りあえず、この間の集団模擬戦の様な事態だけは、勘弁して欲しい。彼女たちは知らないだろうが、あの後の処理は本当に大変だったのだ……。特に、レティ提督をなだめるのが。
「まぁいい、それで……。君はまた、訓練メニューの相談か?」
『ええ。魔法の構築、制御と言った基本的な能力は付いてきましたから。そろそろ一つ先にいってみようかと』
「君も熱心だな……」
『生き甲斐のようなものです。マスターは、まだまだ伸びますからね』
肩を竦めつつ、クロノは椅子に腰掛けた。
他の人間には知られていないが、彼女のマスター、高町なのはの訓練指導の相談に、レイジングハートは良くここを訪れていた。彼女自身、多くの魔導知識を持つ優秀なインテリジェントデバイスであるが、それはやはり知識でしかない。魔導師としてほぼ完成され、多くの実戦経験も持つクロノの意見は、彼女にとって貴重なものなのだ。
それに二人は、なのは達から一歩距離を置いたところで成長を見守っている、と言う似たような立ち位置にいる。それ故に割と気が合うというか、実を言えばクロノにとって一番話の合う身近な女性は、彼女だったりした。
(“生き甲斐”なんて、妙に人間くさい言葉も使うしな……)
最近、本当に彼女が機械なのか疑わしくなる時がある。どっかに中の人とか居るんじゃ無かろうか。
『どうかしましたか?』
「あ、いや……。しかし一つ先というと、戦術面か?」
『はい』
「それよりも、体力面をもう少しどうにかした方がいいと思うがなぁ」
『それは私も思いますが……。体力トレーニングとなると、とたんにマスターのやる気がなくなるのです。あればかりは、長期戦で挑むより他ありません』
「ふむ。困ったものだな」
本人にやる気がなければ、たとえ数をこなしたとしても効果は半減してしまう。自分は今何をやっているのか、このトレーニングはどういう効果が有るのか、トレーニングにより自分はどうなりたいのか、といった明確な意識というのは、思いの外大きな影響を与えるのだ。
何か、その意識を改革させるような出来事でもあればいいのだが、そればかりは彼やレイジングハートがどうこう言ったところで無駄である。
「だが戦術面といったところで、ただ口で伝えて身に付くような物でもないだろう。実戦や模擬戦を繰り返して、自分で考えていかないと」
『しかし、ヴォルケンリッター達との模擬戦は、既にある程度パターン化されています。あれでは、逆に戦術が固定されてしまって良くない』
「確かに。フェイトが良い例―――いや、悪い例か」
彼女も、幼い頃からたった一人とマンツーマンの訓練を繰り返してきたせいで、戦術が固定され、攻撃に傾倒しすぎている。今はその辺を矯正してくれるよう、シグナムにガッツンガッツンやってもらっているのだが、中々手こずっている様子だった。
「けど、彼女らとまともに模擬戦出来るような魔道師というと、なかなかな……。僕はたまにしか相手が出来ないし」
『知り合いに、誰か適切な人間はいないのですか?』
「士官学校時代の知り合いが、居るには居るが……。正直難しいな。彼らも仕事で忙しいだろうし」
というか、あの連中と会わせるのは情操教育上あまり宜しくない気がする。
『お試しということで、武装教導隊の訓練にちょっと放り込んでみるというのは』
さらりと、レイジングハートがとんでもないことを言い出す。
「それは流石に……正直、崖下に突き落とすのにも等しい行為だぞ? もう少し体が出来上がって、体力が付いてからでなければ……」
『では、他に何か案が?』
そうだな……、とクロノは顎に手を当てて考え込んだ。やがて、一つの案が思い浮かぶ。
「一度、ストレージデバイスを使わせてみた方が良いかもしれないな」
『ストレージを? なぜです』
ほんの少しだけ声のトーンを落として、レイジングハートが問い返す。これが人間であったのならば、顔に不満の色がありありと浮かんでいるのだろうなと予想できた。
「なのはは今でも、戦闘に置いて君に頼っている部分が大きいからな。けれど、彼女はそれを当然と思ってあまり意識していない。いや、助けられているというのは分かっていると思うが、何をどうサポートして貰っているのか今一曖昧だろう」
『それはまぁ……そうでしょうが』
不承不承という感じではあったが、彼女もそれを認めた。
「戦術を組み立てることにおいて、相手の事をよりも、まず自分の利点、欠点を明確に知ることが重要だ。ストレージデバイスを使わせることによって、それをハッキリと自覚させる。同時に、君が一体どういう手助けをしてくれていたのかも知るだろうから、自然と君たち二人の連携も上がる。まぁ、すぐに効果は出ないだろうが、それは以後の君の指導次第だな」
どうだろう? と目線で問いかける。レイジングハートは考え込むようにしばらく沈黙していたが、やがて口を開いた。僅かに、諦めを含んだ声音で。
『確かに、一理あります。不本意ではありますが……。しかし、マスターに合うようなストレージデバイスをすぐ用意できるのですか?』
「さて、それが問題だな。僕のS2Uで良ければ、貸してもいいが……」
『冗談を。そんな補助プログラムを極限まで省いて処理能力に特化させたようなもの、扱えるわけがありません。論外です』
だろうな、とクロノは肩を竦めた。
「これはこれで、慣れれば頼もしいんだがな……」
『慣れるまでに何年掛けろと言うのですか』
「じゃあ、局の支給品だな。取りあえずカタログはあるから、適当なのを見繕ってみよう」
『良いのが有ればいいのですが……』
クロノの指が端末を弾き、支給品デバイスの一覧をディスプレイに映し出す。その中からさらに検索を掛けて絞り込むのを、レイジングハートはコロコロと前まで転がって行き、眺めていた。
「中・遠距離支援特化デバイス……と。これなんかどうだ? 高い処理速度と故障知らずのタフな機構を併せ持つデバイスだ。教導隊員にも愛用者が居る」
『いくら何でもごつすぎます。重量を見てください、マスターが振り回せるものですか』
「筋力向上にもなって良いと思うが」
『マスターのひ弱さを甘く見ないで貰いたい。それはもう、私と会う前までデジカメより重いものを持ったことがないなどと豪語していたほどで―――あ、それなどどうですか? そう、それです』
「これか? これは……また……」
『軽量でコンパクトですし、補助プログラムも充実しています』
そして何よりデザインが良い、と呟く彼女を、クロノはすこぶる微妙な表情で見下ろした。確かにこれは、女性局員達にも人気の高いタイプだが……。
「君、意外と少女趣味だな……」
『私は歴とした女性型AIであり、さらに言うなら私達に年齢と言う概念はありません』
「そうか。ところで君、製造されてから何年たってるんだ?」
『そんなにエクセリオンモードが見たいのですか?』
「冗談だ……。しかし、そのデバイスじゃ駄目だろう。フレームの材質がな……なのはの馬鹿魔力と無茶な扱いに、とても耐えられるとは思えない」
『……そうですね、確かに。私も、最近フレームと変形機構の軋みがひどくて……』
「大変だな、君も……」
『ええ、ホントに……』
その後一時間、二人はあーでもないこーでもないとディスプレイを見ながら議論を繰り返していた。
「レイジングハート! もう、勝手に何処行ってたの。……何でクロノ君と一緒に?」
廊下の向こう、フェイと達と並んで歩いていたなのはが、こちらを見つけ慌てて駆け寄ってきた。戸惑ったような目が、クロノとレイジングハート交互に向けられる。
『Sorry master』
「整備部だ。調子が悪いと言うから、付き添ってきたんだが……」
わざとらしくない程度に声を落とし、語尾を濁す。すると予想通り、まったく持って素直に反応して、なのははレイジングハートに詰め寄った。
「れ、レイジングハートどこか悪いの!?」
「いや、それほど大したものじゃない。ただシステム全体に疲労がたまっているから、少し大がかりなメンテナンスが必要だそうだ。整備部が言うには、最低でも二週間……もしかしたら、一ヶ月ほどかかるかもしれないらしい」
「そうなんだ……。じゃあ、その間は管理局のお仕事お休みかぁ」
「いや。任務は今まで通りこなして貰おうとおもう」
「え? だって、デバイスがないと」
「それなんだが、一度ストレージデバイスを使ってみてくれないか? 管理局の支給品を用意するからそれで何とかこなして欲しい。正直、いま細かな任務が多くてきついんだ……」
「でも、なのはストレージデバイスは使ったこと無いんでしょ。大丈夫なのかな?」
その話を聞いていたフェイトが、なのはの後からひょっこり顔を出して問いかけた。
「う……ちょっと自信ない、かも……」
「その辺はこちらでサポートしよう。出来るだけ危険の少ない任務を回すし、必ず誰かと二人で組むようにする。それでどうだろう?」
「ううん、それなら、まぁ……やってみます……」
「そうか、良かった……。ありがとう」
申し訳なさそうに、クロノは笑みを浮かべた。
改めてそう言われると照れるのだろう、なのはが慌てたようにプルプルと首を振る。
「で、でも、その支給品のデバイスってどんなのなの?」
「ああ、一応君に合いそうなのを選んだんだが。そうだな……三日後の予定は開いているか?」
「うん、大丈夫だよ」
「なら、それまでに用意しておくとしよう。ついでに、軽い訓練もかねて使い方を教えるから、アースラに来て貰えるか?」
分かった、となのはが頷く。それを見届け、今度は後のはやて達に声を掛けた。
「と言うわけだ。君たちにも負担を掛けるかもしれないが、サポートをよろしく頼む」
「もちろんや。友達なんやから、当然やよー」
はやての言葉に、ヴォルケンリッターの面々も異存ないようだった。
「それじゃあ、僕はまたレイジングハートを整備部に届けてくるとしよう」
「あ、じゃあ私も!」
「いや、もう遅い。明日も学校があるのだろう? 早く帰った方が良い」
「でも……」
『Master. Worry is not necessary』
「本当に? 大丈夫?」
『All right』
「う〜……じゃあ、ゴメンね。クロノ君、レイジングハートをお願いします」
「ああ。責任を持って預かるとしよう」
この返答だけは、心からの真実を述べた。
『……あなたも意外と役者ですね』
「ん……。まぁ、どこぞの性悪猫姉妹の裏をかける程度には、な」
なのは達が廊下の角を曲がって見えなくなったのを確認した後、二人は静かに会話を再開した。
『少々あなたの将来が心配になってきました』
「僕の? 何が?」
『女性を騙すような男になりはしないかと』
「なるかそんなものッ。……君こそ、いい加減なのはの前でネコを被るのを止めたらどうだ?」
『ネコ? 何を言っているのか理解しかねます。私は冷静沈着で優秀な美人秘書タイプのAI。それ以外の何ものでもありません』
「ああ、そういえば。秘書って私生活では逆にだらしないらしいな。仕事の反動で」
『何が言いたいのです?』
「いや別に」
二人の間に、しばしピリピリとした沈黙が生まれる。
「…………よそう、僕はまだ仕事が残ってるんだ」
『そうですね。無駄な時間を過ごしました』
割かしあっさりと、二人は和解した。
「それで、結局君はどうするんだ? 宣言通り、整備部のやっかいになるのか?」
『それは遠慮したいですね。整備の必要もないのに、あんな所に缶詰されていては息がつまります。マリーは、やたらと私を分解したがりますし』
「ならまぁ、しばらく僕の家で預かろう。ちょうど明日は休みだしな。君も、長期休暇でも取ったと思ってゆっくりするといい。フェイトに見付からないようにしなければならないが……」
『ええ。よろしくお願いします』
「そうと決まれば、さっさと仕事を終わらせるか。今日はビデオショップに寄って帰ろうと思っていたしな……」
『ああ、それは良いですね。私もちょうど借りたいものがありました』
「……ひょっとして、韓国ドラマだったりするか?」
『……なぜそれを?』
「いや……何も言うまい……」
とまぁ、そんなゆる〜い感じで。いつもと少しだけ違う休暇は決まった。
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(ぴろり〜ん)
注:この話は休日シリーズです。この後の更新で語られるのはあくまで、レイハさんの赤裸々休日日誌であり、なのはのストレージデバイス奮闘記ではありません。ご了承ください。
なのはさん「え? じ、じゃあ私の出番は? これだけ?」
ええはい、そうですがそれがなにくぁwせdrftgyふじこlp―――
なのはさん「……分かり合えない、気持ちなの」