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■二次創作小説
 /魔法少女リリカルなのは
  / 海鳴市での
      奇抜な休日シリーズ

  ・Sun light heart all ready!!
     01//02//03

 

 




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 Sun light heart all ready!!(2/3)
   [エキサイト翻訳:太陽はすべて準備ができていた状態で心臓を点灯します]

『何を借りるつもりなのです?』
「ん? 適当に映画と……アルフに頼まれてたアニメかな」
  上着の胸ポケットから聞こえてきた声に小声で答えつつ、クロノは店内へと入っていった。
  流石にこの世界の街中でレイジングハートに飛び回られてはまずいので、今はポケットの中に入って貰っているのだが、相手も居ないのに一人会話している少年というのも、それはそれで周りから見れば奇妙かもしれない。おそるおそる周りを見て見ると、案の定側にいた女性が訝しげな瞳でこちらを見ていた。
  取りあえず引きつった愛想笑いで誤魔化して、そそくさと店の奥に歩いていく。
  さっさと欲しいものを借りて家に帰ろう、と目的のコーナーに向かっていたところで、
『ストップです、クロノ執務官』
「ぐおっ」
  いきなり何かに足首を捕まれて、クロノは盛大に転けた。足元を見れば、いつの間にかその右足首にリングバインドが巻き付いている。
  なんだ? 敵か? しかしそんな気配は全く……。
『ドラマの新作がありました。残り一本のようです、可及的速やかに確保を』
  君の仕業か!?
  叫びそうになる気持ちをどうにか抑え、またも向けられてしまった周りの視線から逃げるようにクロノは立ち上がった。
(「もう少し他の呼び止め方が出来なかったのか!?」)
  会話を念話に切り替え、精一杯の怒気を込める。
(『いえ、妙に早足だったもので。それはそれとして確保を』)
(「いつか絶対に、君の正体をなのはにばらしてやる……」)
(『はて、私にはばらされて困る正体などありませんが』)
(「言ってろ……」)
  念話で口論を続けながらも、レイジングハートの言うDVDをとてやる辺りは、彼の生真面目さゆえか。
(『ああ、ついでにそちらの作品もお願いします。一巻から五巻まで』)
(「……君、遠慮という言葉を知っているか?」)
(『私の働きを鑑みれば、管理局は私にも給料を払うべきなのです。これはその代価です』)
(「そう言うことは経理部の連中に言ってくれ」)
(『別に良いではないですか。執務官なら、相当額の預金があるでしょう』)
(「こないだ手痛い失費があったんだよ……」)
  先日の騒動で壊れた自転車の修理に、またかなりの金額が掛かったのだ。ついでに、何故かヴィータの自転車も新しく買うことになったし……。まぁそれは安物で済ませたが。
(『そうなのですか? まぁそれはともかくとして今はDVDです。さぁ、それですそれ』)
  ポケットからニュっと魔力で編んだ触手を伸ばし指し示してくる彼女に、クロノの胸には早くも後悔が渦巻いていた。

 休日の朝。仕事もないというのに、クロノは七時過ぎにはもう起き出し朝のストレッチなどを始めていた。
『老人のような少年ですね、あなたは』
  休みの時ぐらい、ゆっくり二度寝でもしていればいいだろうに。若干の呆れを含んだレイジングハートの声に、当然のことのような顔でクロノが振り返った。
「睡眠の取りすぎは体調を崩すだろう。そりゃあ徹夜明けの時は遅くまで寝ているときもあるが。せっかくの休日だ、時間は有効に使うべきだ」
『まぁ、そう言う考え方もありますか……』
  ストレッチも終わったのだろう、クローゼットの中から着替えを取りだすクロノ。しかし、シャツを脱ごうとしたところで、ふとその手が止まった。
「と、忘れていた」
  今度は机の引き出しをごそごそと漁りだし、やがてなにやら鈍い輝きを放つ金属製の小さな箱を取り出した。それをそのまま、机の上にいたレイジングハートの上にカポッとかぶせてくる。
『おや』
「君も一応は女性だからな」
『私は別に気にしませんが』
「僕が気にするんだ」
  声と共に箱の外から聞こえてくる着替えの音に、レイジングハートはやれやれと首―――はないので、球体の体を揺らした。
(甘いですねクロノ執務官。人間ではないのですから、少々視界を覆ったところで意味はありません)
  見てどうするのかという意見はさておいて、隠されるとやはり逆らいたくなるものだ。というわけでセンサーの設定を切り替えて、その発育不良の未成熟ボディを―――
『こ、これは……鉛製!? これでは電磁波がまったく通らない!』
「何をやってるんだ君は……」
  心底うんざりしたような声が、クロノの口から漏れた。


「じゃあ、僕は少し出かけてくるが。君は部屋に居るんだろう?」
『ええ、ゆっくりさせて貰います。あなたはどこへ?』
「自転車で商店街の辺りを適当に散策してくるだけさ」
  そう言うと、クロノは財布と最近買ったらしい携帯電話をポケットに詰め、さっさと部屋を出て行ってしまった。
  そんな彼を、少しだけ意外な心持ちで見送る。
『ふむ……彼も、休日はちゃんと遊んでいるのですね。てっきり、休日でも訓練辺りに勤しんでいるのかと思いましたが』
  と、呟いてから思い出す。いや、そう言えば、
『……確かエイミィが、最近変わったてきたと話していましたか』
  ちょうど闇の書事件が終わってすこし経った辺りから、“頑なさ”が抜けてきたらしい。今まで張り詰めすぎていたものが若干緩んだかのように、仕事以外にも、割と興味を持つようになってきたと、そう言っていた。
  その原因がどこにあるのかは分からないが、何か彼の意識を変えるような出来事があったのかもしれない。なのはとの出会いか、フェイトという義妹が出来たことか、それともそれ以外の別の何かか。まぁなんにせよ、
『少し成長した、と言うことでしょうか。余裕が持ててきたのはよいことです』
  そこで考えに区切りを付け、レイジングハートはフライヤーフィンを展開した。
  パタパタと飛んでテレビの前に降り立ち、無造作に置かれていたDVDのケースを開けるべくニョニョ〜っと伸ばした魔力の触手二本を実に器用に操る。
『さて、お約束尽くしの韓国恋愛ドラマを堪能させていただきましょう。最後に死ぬのは主人公でしょうか、それともヒロインでしょうか。実に楽しみです』
  非常に活き活きとした声を上げ、レイジングハートはDVDをデッキにセットした。
  テレビに映し出される映像。それを見るためのベストポジションを得るべく、ベッドの上に飛び乗る。もちろん、手元にリモコンも忘れない。これでセンベイでも用意して居ようものなら完全に、家事をサボって夫の居ない昼間をエンジョイしている主婦そのものであった。  


  それから二時間ほど経って。
  プ〜ンと。小さな羽音を立て、窓の隙間からハエが一匹入り込んできた。
  ハエはひとしきり部屋の中を飛び回った後、小さな輝きに惹かれるように、ベッドの上に鎮座してDVDを見ていたレイジングハート方へと飛んでいき―――
『……Divine Shooter』
―――ジュッ
  直ちに蒸発、消去された。その間も、身じろぎもせず彼女はDVDを見続けている。
  やがてドラマがキリのいいとこまで来たところで、ピポっと魔力触手でリモコンを操り、レイジングハートはプレイヤーを停止させた。
『この辺で止めておきましょう……休暇は長いですからね。一気に見てしまってはもったいない。しかしうだつの上がらない主人公ですね。展開もこってこての使い古された王道。まったく……素晴らしい』
  実に好き勝手な感想を述べながら、今度はテレビのチャンネルを変えていく。しかし特に面白そうなものも無く、結局テレビ画面を消した。
  やる事もなくなり、意味もなくベッドの上を右に左にこーろころと転がる。
  すぐに飽きた。
『…………ほ!』
  突然レイジングハートは飛び上がり、ピカーンと光に包まれた。
―――スバッ、ガチョンガチョンガチョン、シャキーン!
  変形プロセス起動。完了。ものの数秒足らずで、デバイスモードにチェンジする。そのまま柄と先端の接続部をグキキッ、グキキッとほぐすように捻り、また元の待機モードに戻った。
『ふぅ……。スッキリしました。ずっとテレビを見続けるというのも、疲れるものですね』
  満足げに呟く。まぁ、そう言うことらしい。
  とはいえ、する事がないのは相変わらずだ。どうしたものかと床に下り、試しにベッドの下を覗いてみる。何も無かった。
『むぅ……つまらないですね。彼は本当に十代の少年なんでしょうか。それとも別の隠し場所が?』
  何か無いものだろうか、と部屋の中を転がる。机の下やらタンスの裏やら、探索活動を続けてみるも、めぼしいもの―――つまりはアレな本やらビデオやら、もしくは意表をついてゲームやら―――はまったく見付からなかった。
『……散歩でもしますか』
  ちょっぴり虚しくなった心を振り払う様に、レイジングハートはフライヤーフィンを展開した。

『そう言えば、一人で街を出歩くのも久しぶりですね』
  十分な高度を取って人目に付かないよう気を付けながらも、気ままに羽を伸ばして―――まさに文字通りだ―――レイジングハートは空を飛んでいた。
  とはいえ、高さはせいぜい家の屋根より少し上と言った程度ではあったが、それでも自分の意志で自由に外を飛べるというのは気持ちが良い。久方ぶりというのであれば、なおさらだった。
  あの小さな少女がマスターになって以来、彼女には殆ど一人になる時間がなかった。なのはは寝るときとお風呂にはいるとき以外、ほぼ常に彼女を身につけていたし、仮に手放すときがあったとしてもそれはメンテナンス等と言った用があるときだけである。もちろんそれに不満があるというわけではない。デバイスとしては、至極あたりまえのことだし、今のマスターとの生活は、彼女にとっても実に有意義なものだと感じていた。
  しかしまぁそれでも。降ってわいた休日を楽しむという行為がいけないというわけでもあるまい。
『クロノ執務官には、感謝しなければいけませんね』
  二週間か、一ヶ月か。あるいはもっと長くか、それとも短くか。いつまでこの時間が続くのかは分からないが、彼の言うとおりゆっくりと楽しませて貰おう。
  今日は良い陽気である。機械である自分の心までも暖めてくれるような、そんな日差しだ。何よりも素晴らしい、休日日和り。
  だからであろう。
―――急転直下。
  彼女は太陽の日を背に受けて飛来するその影に気づくことなく。
―――捉時必的。
『あ゛っ』
  あっさりと。飛んできたカラスに咥えられ、遠く空の彼方へと掠われていった。

―――我、漁、天、成!

 一方その頃クロノはと言うと。

「むっ!?」
  何か重大なことを察したように、彼の顔が強張った。
  信じられないといった様子で目を見開き、恐る恐るその手元へと視線を落とし……
「こ、これは……しっぽの先にまで具が詰まっている!」
  驚愕の声を上げると、さてもう一口、と手元のカレーチーズタイ焼きなるものを頬張る。
「素晴らしいな、うん。あそこの屋台は要チェックだ」
  海鳴臨海公園の一角で、少年は実に満足げな表情で休日を過ごしていた。

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